蛇髑髏×鷲
SOUVENIR JACKET
テーラー東洋

テーラー東洋(東洋エンタープライズ)が2004年秋冬商品として発売した「コレクターズセレクション」のスカジャン、「蛇髑髏」。

刺繍は東洋エンタープライズ(旧:港商商会)に保管されていた型をそのまま使用し、素材や縫製、ジッパーに至るまで1950年代当時の規格を再現したものという触れ込みで売り出したのは良いのですが、それを「理由として」修理は受け付けないという姿勢が各所で物議を醸し出したことはご存知の方も多いと思います。

私も発売当初は店頭でさらっとチェックしただけだったのですが、再現度そのものへの疑問と同時に、当時のスカジャンってそこまで脆かったかなぁという疑問も感じていました。

そんなことを思っている中、2004年末に「このくらいの値段なら買ってもいいかな」という価格で販売されている場面に出くわしたため、この際だから詳しくチェックしてみようという興味が湧いてきて購入に至りました。


別珍面の前側です。左右の胸とも髑髏が刺繍されています。また、両袖には龍の刺繍が入っています。

別珍面の後ろ側です。蛇が絡み付く髑髏が刺繍されています。

胸の刺繍部分のアップです。

背中の刺繍部分のアップです。他のレプリカと並べてみると、かなりヴィンテージの雰囲気に近いのですが、ヴィンテージそのものよりは若干しっかりし過ぎている感じがします。

左腕の刺繍部分です。龍が肩の方を向いています。

右腕の刺繍部分です。左腕と同じく、龍が肩の方を向いています。

ジッパー部分のアップです。TTS製ジッパーをモチーフとして再現されていますが、刻印は東洋オリジナルの「TYE」となっています。TTSの実物と比較すると、明らかに強度は低い仕上がりになっています。

サテン面の前側です。左右とも鷲の刺繍が入っています。

サテン面の後ろ側です。「JAPAN」の文字と鷲、松が刺繍されています。

胸の刺繍部分のアップです。

背中の刺繍部分のアップです。別珍面同様、ヴィンテージそのものよりしっかりとした刺繍となっています。

 

で、私的なチェック結果は以下のとおりです。

 

1.時代考証

このスカジャン、はっきり言っていつ頃の製品をモチーフとして作られたのかを特定するのが難しいと思います。販売店でも漠然と1950年代としているところや1950年代初期としているところ等、様々でした。

(1)ジッパー

 上でも書きましたが、このジッパーの元ネタはTTS(東京寺西商会)製です。TTSのジッパーといえば1953年までしか製造されていなかったようなのですが、在庫を継続使用していたと考える方が自然かなと思います。

(2)生地

 別珍を使用したスカジャンが登場したのは1950年代中頃とのことなのですが、刺繍の仕方を考慮した場合、もう少し以前から使用されていたのではないかと思えるケースもあったり、難しいところです。

(3)刺繍

 別珍面に刺繍されている髑髏のデザインは1950年代後半に作られたものと聞いていますので、少なくとも前半のものではないと思われます。

(4)サイズタグ

 東洋エンタープライズの前身である港商商会は、果たしていつ頃まで漢字によるサイズ表記を行っていたんでしょう?

こんな感じで、総合的に考えると元ネタは1950年代中〜後半の製品と判断していいんじゃないかなと思います。

 

2.再現度

次に、各部分毎に再現度をチェックしてみます。

(1)生地(別珍)

 別珍についてはかなり再現度は高いのではないかと思います。ただ、デッドストック状態の別珍は今まで目にしたことがないため、ヴィンテージもので見られるような毛が抜けた地肌露出状態になるまで上手い具合に劣化していくか、それともそこまで到達する前に穴が空いてしまうかどうかまでは想像つきません。

(2)生地(サテン)

 サテンについてはヴィンテージ感が上手く出ていると思います。ただし、これは当時の規格が再現されているというよりは、既に劣化が始まっている状態が再現されてしまっているような感じです。風合いを出すためにわざとそのような加工をしているのだとすれば、ちょっとやり過ぎだったのではないかなと思います。

あと、個人的な疑問がひとつ。当時と同じ規格と謳われているということは、当時の港商商会のスカジャンはサテン地にレーヨンではなくアセテートを使用していたと宣言していることになりますが、果たして本当なのでしょうか…?

(3)リブ

 リブについてはかなりヴィンテージに近い出来で、レプリカにこれ以上は望めないレベルじゃないかなと思います。

(4)ジッパー

 見た目はかなり良い感じが出ていますが、なんとなくヴィンテージものに感じられるしなやかさというものはなく、どちらかというとカチッとした印象を受けます。その印象からか、実物のジッパーと比較すると弱々しく感じられてしまい、注意書きの脅し文句(笑)にも妙に納得してしまいます。

また、フライトジャケットのレプリカでは常識のように行われている「実名復刻」をこのジッパーでも実現してくれると良かったのですが、何かクリアできない問題があったのでしょうか…?

(5)刺繍

 素材面で感じた弱さのやや過剰とも思える再現度とは反対に、刺繍はややしっかりした感じがします。最初に店頭で見たときはヴィンテージものよりは2割増以上密度が高いように感じていたのですが、じっくりと見直してみるとそこまでではないにしろ、それでも1割増程の密度の高さを感じます。

しかし、最近の横振ミシンにより刺繍されたときの密度の高さから考えるとギリギリまで低くしたものとも感じられ、そのあたりを加味すると再現度は高いと判断しても良いのではないかと思われます。

 

3.耐久性

全体的には、当時の規格というよりはユーズド状態を再現した印象を受け、耐久性についても同様に劣化過程の状態に近いものではないかなと思われます。仮にこのスカジャンを数十年保存しておいたとするなら、恐らく現在のヴィンテージものよりも劣化が激しくなるでしょう。

ジッパーも当時の機械を再稼動させて製造したとのことですが、当時の機械を使用することがそのまま当時の品質を再現することには結びつくわけではない典型的な例になっていると言えます。当時の機械を使用することは単なる「道具」の再現でしかなく、原材料やその使用量によっても出来上がりに大きな違いが出てしまうんだと思います。

 

4.アフターケア

今回のスカジャンの一番の問題点がアフターケアについてでしょう。東洋エンタープライズは耐久性の低さを「理由として」アフターケアの放棄を謳っています。かぎ括弧でくくったのは、それが理由にはならないからです。おそらく、アフターケア放棄の理由としては、

・修理依頼の件数がかなりの多数になると予想されること

・修理用パーツの製造が対応困難(不可能?)なこと

・製品自体(特に生地)に修理に耐えるだけの耐久性が無いこと

等が挙げられると思います。

また、もうひとつの問題は、そういったアフターケアの放棄を商品自体(タグ等によって)には明記せず、販売店に代弁させていたところにあります。

これらのことから、個人的には「本製品は耐久性が低くデリケートな商品ですが、限定生産品でありパーツの追加生産も困難であるため、修理には対応できないものであることをご容赦ください。」くらいの説明が製品タグの注意書きに明記されていれば、それほど物議を醸すようなことにはならなかったのではないかなと感じました。

 

5.おわりに

そんな感じで、当時の規格そのままに製造したというよりは、劣化過程のヴィンテージ感を出してしまっているんじゃないかなと思いましたが、ヴィンテージ以上に気を遣いながら着用(笑)して今後の劣化過程を見ていきたいと思っています。

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